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 相合傘−Kotoko


「あっ・・・雨・・・」


窓ガラスの外を、雨の雫が伝い落ちて不思議な模様を作り出している・・・


―入江君、傘持ってるかな・・・


私は、窓に手を当てて、厚い雲の張り出した空を見上げながら、入江君を心配していた。


<これから帰る>
ここ数日病院に詰めていた入江君から、味も素っ気ない、でも待ちに待った言葉の書かれ
たメールが届いたのは、ほんの30分前・・・その時は、もう雨は降っていたのかな・・・


―どうする?琴子!迎えに行っちゃう?・・・雨が降ってきたからって言えば、大丈夫だよね!


私は、ふとしたひらめきに、わくわくしながら自分に問いかける。
おそらく入江君は傘を持っていない・・・


―でも、入江君のことだから、もしかしたらちゃんと持ってるかも・・・


膨らんではしぼむ気持ち。
でも、何でもいいから、少しでも早く入江君に会う理由が欲しい・・・
会いたくて仕方のない心には、たかが雨でも最高の言い訳になる。


<雨降って来たね。傘持ってバス停で待ってる・・・>
万が一にも行き違いにならないように、ちゃんとメールをすることは忘れない。
どうか、<傘は持ってる>なんて返事が返ってきませんように・・・


私は携帯をポケットに入れると、玄関の傘立てから入江君の大きな傘を持って、自分の花柄
の傘を差して家を飛び出した。


でも、門の所まで行ってふと立ち止まる・・・
私は、思わず込み上げてくる笑いを堪えながら、自分の傘をたたんで門扉に掛けると入江君
の大きな傘をさして、バス停へ向かった。


―傘は一本・・・うふふ、これで相合傘決定ね・・・


雨は、ひっきりなしに降っている・・・
いつもなら憂鬱なだけの雨の日も、今の私は傘を叩く雨の雫のように弾む心でバス停への
道を歩いている。


―入江君は、どんな顔をするかな・・・


きっと、いつもと同じで、ちょっと鬱陶しそうな顔をして私を見るよね。
そして、傘が一本しかないことに、呆れたようにちょっと笑ってから、仕方なさそうに傘を受け
取るんだよね。
でも、私が濡れないように、ちゃんと斜めに傘を差しかけてくれるの・・・


どんなささやかなことにも、幸せは隠れてるって、いつも思ってる。
そして、入江君がいれば、私はいつもその幸せを見つけられるの・・・


ほら、入江君を乗せたバスが、角を曲がってくるのが見える。
私は、雨に濡れた舗道を、跳ねをあげるのも気にせず走り出した。



入江君と相合傘をするチャンスをくれた、今日の雨に感謝・・・だね。
そして、ただ家で待ってるよりも、ちょっとだけ早く入江君に会わせてくれて、ありがとう・・・ 



                                                END




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