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 ただ愛おしくて・・・

肩が小刻みに震えていた。


―どんなにか心細かっただろうに・・・

必死に涙をこらえて、自分を責める琴子にココロが痛んだ。

「ありがとう・・・いてくれてよかった」
オレが、言えたのはこれだけ・・・
あとはもう、抱きしめてやる以外、慰める方法が見つからなかった。

琴子が堰をきったように泣き始めた。
まわりの目などお構いなしに、オレのシャツを濡らして泣きじゃくるあいつを
オレは、ただ泣くにまかせて好きにさせておいた。
それが出来る自分が不思議だった。


「こわかった・・・裕樹が死んじゃうかと思った」
搾り出すような琴子の言葉に、オレはただ抱きしめて頭を撫で続けた。


「もう心配ないよ・・・」
オレのあごの下にすっぽりとおさまってしまう琴子の頭に頬をあてて、オレは小さく
ささやいた。




琴子にキスをした。

裕樹の病室・・・
すぐ隣のソファで、疲れきって眠ってしまったあいつの唇に、そっと唇を重ねた。


この気持ちはなんだろう?
ココロの奥底から湧き上がるこの気持ちは・・・

琴子が、背もたれに頭をあずけて静かな寝息をたて始めた時、それは何の前ぶれ
もなく、あっという間にオレのココロを支配した。


それは、「好き」なんていう、あからさまな感情ではない。
ただ、ただ愛おしくて・・・

臆することなく。
ひるむことなく。
ためらうこともなく。

ただ自然に、ココロの命じるままに、琴子に唇を重ねていた。


愛おしさ・・・
それは、”守りたい”とか”支えたい”とかいった感情に似ているような気がする。

いや・・・今さら、そんな言葉にすりかえてどうする?
いつも本当の気持ちをごまかそうとする自分がもどかしい・・・

でも、今夜オレの胸の中で泣いていたのが琴子でよかった。
琴子が、安堵して泣ける場所がオレの胸でよかった。
少し混乱しているオレのココロも、今夜ばかりは素直に認めていた。



それにしても・・・
裕樹が手術までして入院したというのに、琴子のことばかりを考えているオレは、
随分と不謹慎な兄貴だ。


でも、裕樹もわかってくれるはずだ。
だって、オレは知っている。裕樹もオレと同じ気持ちだということを・・・
オレたちって、兄弟揃ってかなり捻くれてるな。



今夜、押さえようもなく込み上げる愛おしさに、明かに自分の変化を感じ取っていた。
オレにとって琴子がかけがえのない存在なっているということは、もうごまかしようがない。


―なんだかしゃくだな。


病室の天井を仰ぎながら、苦笑する。


結局、オフクロと琴子の思い通りになってるじゃないか・・・



やっぱり、まだ当分は秘密だな。
オレのこの気持ちも、もちろん今夜のキスも・・・



                                          END



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