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 言葉にできない想い

バスが夜の街を走る。
オレはわざと琴子から顔を逸らせて、反対側の窓の外を見ていた。
鏡のようにバスの中が映る窓ガラスに、隣に座る琴子がオレの顔を覗き込もうとし
ているのが見える。

「少しは、やきもちとか焼かなかった?」
琴子が、オレの様子を伺いながら聞いてきた。


「やきもちなんて焼くかよ。どうせオフクロの作戦だろ?お前らの考えなんか・・・
つまんねえよ」
オレの言葉に、琴子はがっかりした顔でうつむいた。

そうさ、やきもちなんて焼きはしない。
お前の気持ちなんて、わかり過ぎるくらいわかってる。
お前はオレが好きなんだから、中川なんて奴と本気で付き合うわけがないと最初
から思っていた。

「すっかりお見通しか・・・」
琴子がつぶやきながらため息をつく。

あたり前だ・・・
お前の考えてることなんて、なんでもお見通しだよ。
だからこそ、こんな茶番には絶対に乗せられはしまいと、あえて知らんぷりを決め
込んでいたんだ。


それでも、中川の手がお前の肩にかかれば、見ていておもしろくない。
胸にざわざわとさざ波が立って、いい気持ちはしないさ。
それでいて、中川と金之助の殴り合いを、泣きそうな顔で必死で止めようとしてる
お前を見れば、オレは手を差しのべずにはいられないんだ。

まったく、いつもいつも迷惑ばかりかけやがって・・・


ふいに琴子が笑い出した。
ついさっきまで、しょんぼりとしていたのに、今はこらえきれないといったように
笑っている。

「なに笑ってるんだよ」

「なんだかおかしくって・・・」

―変なやつ・・・

でも、ふと思った。
もしかしたら、琴子もオレの気持ちを理解したのかもしれないと・・・
中川と金之助の前で、オレが言ったの言葉の意味を・・・


<琴子が好きなのは、オレなんだぜ・・・喧嘩するだけムダだ>
オレの言葉に、凍りついたように立ちつくす中川と金之助を交互に見て、なんだか
気持ちがスッとしていた。
ココロの奥の奥で、もやもやとしていた霧がすっかり晴れていた。


琴子の肩に手をかけて歩き出した時、その肩を抱くのに相応しいのはオレだけだ
と思えた。


我慢できずに笑い続ける琴子につられてオレも吹き出した。

「何笑ってるの?」

「なんだかおかしくて・・・」

オレたちは、顔を見合わせて笑った。


琴子が隣で笑っているのが、嬉しかった。
この瞬間だけは、オレ達のココロ・・・つながっていたかもな・・・


ただ不思議だけど、今のオレには、オレの隣に琴子がいる未来を想像できない。
それなのに、琴子がオレを好きじゃなくなる未来も想像できないんだ・・・

笑いながらオレは、言葉にできない想いを、ココロの中でそっとつぶやいた。

琴子?
今のオレはまだまだ混沌としていて、お前に近づいて行くことはできないんだ。
でも、せめてお前からよく見える場所にいつでも立っていてやるから・・・


だから・・・


もう、オレを試すようなことはするなよ。
お前はそのままオレを好きでいていいんだから・・・



                                          END



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