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 媽媽(ママ)は魔法使い −2吻OPに寄せて−

休日の午後・・・
オレは、琴子を部屋から閉め出して、翌日の講義で使う資料作りに没頭していた。
ふと机の時計を見ると、午後の3時を少し回ったところ・・・オレはキーボードを打つ手を
止め、一休みしようと思いテラスへ出た。
西日に目を細めながら、思いきり体を伸ばす。
すると、階下のテラスでオフクロが琴子を呼ぶ声が聞こえてきた。

「琴子ちゃん・・・こっちへいらっしゃい。お茶にしましょう」

「じゃあ、直樹くん呼びますね・・・」
琴子の声もすぐ下から聞こえてくる。

「ああ!待って、待って琴子ちゃん!・・・琴子ちゃんを追い出して勉強してるんでしょう?
どうせお兄ちゃんは呼んでも来ないわよ!それにね、お兄ちゃんには内緒の話があるの
だから丁度いいのよ!さあ、ここに座って・・・」
オフクロの声が、少し弾んで聞こえるのは気のせいか?・・・それにしても、オレに内緒の
話とは聞き捨てならない。
オレは、足音を立てないように気をつけながらテラスの柵に近づくと、二人の会話にそっ
と耳を傾けた・・・

「琴子ちゃん?昨日、チビの病院で私が話したこと覚えてる?」
オフクロの言葉に、琴子が「はい」と答えるのが聞こえる。

―チビの病院で話したこと?・・・

「なんだか琴子ちゃんが、お兄ちゃんのことで悩んでるみたいだから、これから私がとー
っても元気の出る話をしてあげるわ。もしかしたら感動して泣いちゃうかもしれないわね」

オフクロの話しぶりを聞いていると、琴子に向かってウィンクしている姿さえ想像できた。

「ほら・・・これを見て・・・」
オフクロが、琴子に何か見せているようだ。

「わあ、赤ちゃんの写真・・・これ誰ですか?」

―赤ん坊の写真?・・・誰のだ?

「こっちは、お兄ちゃんよ」
「きゃあ、可愛い♪」

―オフクロの奴・・・オレの赤ん坊の時の写真なんて琴子に見せて、何を話す気だろう?

「でしょう?・・・じゃあ、こっちは誰だと思う?」
「えっ?・・・さあ、誰ですか?」

オフクロが含み笑いをしている声が微かに聞こえる。
「琴子ちゃん!・・・あなたよ」

「ええーーーー??」
琴子の絶叫が聞こえ、すぐに静かになる・・・きっと琴子はその写真を受け取って見入っ
ているんだろう。
オレも、興味をおぼえテラスの柵から身をのりだすようにして下のテラスを覗いた。
丁度、オレの真下のテーブルに、オフクロと琴子が座っている。
オレは、琴子が手に持っている写真に注目した・・・小さくてはっきりは見えなかったが、
確かにその写真には、赤ん坊が二人写っているように見えた。

「こ、これが私ですか?・・・私が小さい頃の写真って、家が壊れた時にほとんど無くなっ
てしまってるから、なんだか嬉しいけど、どうして私が直樹くんの隣に寝てるんですか?
パパからもそんな話聞いたこと無いですけど・・・」

オレもそんな話は聞いたことがなかった・・・
オレは、半信半疑なままテラスから頭を引っ込めると、もっとよく話が聞こえるように身を
低くしようとそのまま柵に寄りかかるようにして座り込んだ。

「私もこの女の赤ちゃんが琴子ちゃんだったなんて、最近まで知らなかったのよ・・・」
オフクロが、信じられないようなことを言った。

―えっ?・・・

「えっ?・・・」
琴子も絶句している。

「私ね、本当に女の子が欲しかったのよ・・・もちろん、お兄ちゃんも裕樹もとても賢くてハ
ンサムで、私には過ぎた子供達だと思うの。でもね、やっぱり女の子が欲しかったのよ」

オレは、琴子の妊娠騒動の時に、子供部屋いっぱいに広げられていた女の子用の洋服
やおもちゃを思い出した。
あの時、オフクロは琴子のお腹の子供は、絶対に女の子だと決め込んでいたっけ・・・


そして、オフクロはゆっくりと何かをかみしめるように語り始めた。

オフクロが、出産して初めて赤ん坊のオレに会うために新生児室に行くと、オレの隣には
女の赤ん坊が寝ていた。
女の子が欲しかったオフクロは、単なるあこがれから、オレとその赤ん坊の写真を撮った。
ふと、その女の子のベッドにつけられた名札に書かれた「相原」という名前が、オヤジの親
友と同じ名前だとは思ったが、珍しい名前ではなかったし、その頃はお互い音信不通だっ
たからあえて確かめようとは思わなかった。そして、オレより少し先に産まれていたその赤
ん坊は、翌朝には退院してしまい赤ん坊の両親に会うこともなくそれきりになった。

・・・ところが、オレと琴子が結婚することになり、初めて琴子のくわしい出生時の資料を見て
琴子が産まれた病院がオレが産まれた病院と同じだったことがわかり、よく調べてみると、
あの時の赤ん坊が実は琴子だったということがわかった・・・ということだった。

「もう、これを知った時にね、私がどれ程嬉しかったかわかる?・・・本当に、踊りだしたいく
らいの気分だったのよ」
オフクロが、かなり興奮した声で言った。

オレは、目を閉じてオフクロの話を聞きながら、寒気すら感じていた。
ふとオレは、この話を聞いているはずの琴子の声がまったくしないことが気になった・・・
琴子はいったいどんな顔をしてこの話を聞いているのだろう?・・・そして、耳を澄ますと、
微かに琴子のしゃくりあげる声が聞こえてきた。

「それでね琴子ちゃん、ちゃんと聞いて!ここが重要なポイントなのよ・・・私ね、赤ちゃん
だったあなたがあまりに可愛くて、思わず・・・うふふ」
オフクロの声がふいに小さくなる。

「えっ?・・・思わずなにをしたんですか?」
聞き返す琴子に、オフクロが耳打ちをしているのか、微かな囁きが聞こえただけで、何を
言っているかまでは聞き取れなかった。しかし、オレがもう一度身を乗り出してみようかと
立ち上がりかけた瞬間に、琴子の絶叫が空気を震わした・・・

「ええーー!!魔法のおまじない???」

―魔法だって?

「きゃあーー琴子ちゃん、しー、しーよ・・・そんな大きな声で言っちゃだめ!お兄ちゃんに聞
こえたらどうするの!」
オフクロが、あわてて琴子を静めているのを聞きながら、オレは思わず吹き出しそうになった。

「だって媽媽ったら、魔法のおまじないだなんて・・・」
琴子もクスクスと笑っている。

「あら、だって私、赤ちゃんだった琴子ちゃんに、こう魔法のおまじないをかけたのよ・・・
<可愛い赤ちゃん!あなたは大きくなったら、今隣で寝てるこの直樹くんに恋をします・・・
そして直樹くんの愛するお嫁さんになって、私の可愛い娘になるのよ>ってね・・・本当よ!」

―えっ?・・・

「えっ?・・・その赤ちゃんが、私だって知らないのに、そんなおまじないを?・・・」
琴子の声は震えていた。

「そうよ・・・だから、この赤ちゃんが琴子ちゃんだったって知ったの時の私の驚きがどんなも
のだったか想像できるでしょ?そして本当にそのおまじない通りになったでしょ?・・・私ったら
まるで魔法使いみたいね・・・どう?この話、信じる?」

琴子の返事は聞こえてこなかった・・・
きっと琴子のことだ、感動で口もきけないのだろうことは容易に想像できた。

「だからね琴子ちゃん?あなたとお兄ちゃんは、産まれたときから結ばれる運命だったのよ。
ずっと、お互いにとって一番相応しい人間になるように育ってきたの・・・きっとそうなのよ。
だって、昨日も話したように、お兄ちゃんがどんどん賢くなって、人との間に壁を作るようにな
って、私は、もしかしたらお兄ちゃんには、普通の恋はできないかもしれないって思ったことも
あったの・・・」
オフクロの声は、それまでとは打って変わって真剣そのものだった。

「でも、本当に私の願いが叶って、お兄ちゃんの前にあなたが現れて、何度もダメかもしれな
いって思ったこともあったけど、こうしてあなたは私の可愛い娘になったわ・・・お兄ちゃんの愛
情は、とってもわかりにくいけど、でも本当に心からあなたを愛しているのよ。これは私が保証
します・・・ねっ?だから、もっと自信を持って!私は何があっても琴子ちゃんの味方だからね」

「ま、媽媽ぁ・・・」
ずっと押し黙ってオフクロの話を聞いていた琴子が急に大きな声を上げた。そして、おそらくオ
フクロの首にでもしがみついたのだろう・・・「うんうん」と頷く声と一緒に、随分と長い間しゃくりあ
げる声が続いていた。

オレは、琴子の嗚咽を遠くに聞きながら、しばらくその場から動けないでいた。
こんな突拍子のない話が、本当に事実なのだろうか?・・・
もし、これが本当に起こったことならば、これこそが奇跡というものかもしれないと思っていた。

―まさか、オレと琴子の運命を握っていたのが、オフクロだったなんて・・・


そんな時だった。
玄関の方で、チビを散歩に連れて行っていたらしい裕樹が、オフクロを呼ぶ声が聞こえた。
「媽媽ー、またチビがMARUと喧嘩したー!」

「ええー!?」
オフクロと琴子の声が同時に聞こえ、バタバタと走っていく足音が遠ざかると、下のテラスは
急に静かになった。
オレは、ゆっくりとその場に立ち上がると、テラスの柵から下を見た。
すると、思った通り二人が見ていた写真が、テーブルの上に置いたままになっているのが目
に入った・・・オレは、急いで階下に下りると、そっと玄関にいるオフクロ達の様子を伺ってから
1階のテラスへ出た。

テーブルの上に置かれた写真におそるおそる手を伸ばす・・・
そこには、まだこの世に生を受けたばかりの赤ん坊が二人、無垢な寝顔で並んでいた。

―これが、オレと琴子?・・・

オレは、不思議な感動と感慨に包まれながら、しばらくその写真に見入っていた。

オフクロが魔法使いだとか、琴子にかけたおまじないだとか、増してや運命なんて言葉、少し
前のオレなら笑い飛ばしていたかもしれない・・・

しかし、今確かにオレは琴子を愛していて、琴子と出逢ったことで本当のオレを知ることが出
来たことを身に沁みて知っている。

―運命か・・・前に琴子にもそんなこと言われたことがあったな・・・

オレは、ふっと息を吐き出して微笑んだ。

―まったく、オレのオフクロが魔法使いだったなんて、知らなかったよ・・・

オフクロが話した奇跡のような出来事と、オレの前に琴子が現れた事実とが、本当はただの
偶然の一致だとしても、今のオレは、運命なんていうくすぐったい言葉の方を信じてもいいよ
うな気がしていた。

「お前におまじないをかけてくれたこと、お前と出逢わせてくれたこと・・・やっぱり、オフクロに
感謝しないといけないんだろうな・・・」
オレは写真の中の小さな琴子に向かってつぶやいた・・・


「お兄ちゃん!お兄ちゃん!チビが大変なの・・・ちょっと降りて来て!!」
オフクロが、2階にいると思っているオレを呼ぶ声が聞こえてきた。

オレは、手にしていた写真を、もう一度見つめて心に焼き付けると風に飛ばされないようにテー
ブルの上のカップの下に差し込んでから家の中に入っていった。


あんな話を聞いたあとに、オレを見る琴子の反応に期待しながら・・・
そして、”魔法使いの息子”に生まれた不思議をかみしめながら・・・


                                            END

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

≪あとがき≫

この物語は、2吻オープニングの映像を見て膨らませたお話です。

ちょっと突飛な設定でしたが、オープニングの直樹&琴子の赤ちゃんが出てくる
あたりの映像を見ていると、入江夫妻と相原夫妻は、ニアミスはしているもののお
互いの存在には気付いていないように見えるんですよね・・・
そのあたりを踏まえて、こんな物語が出来上がりました。

ただ、原作を読まれている方はよくご存じだと思いますが、原作では琴子は9月生
まれで直樹は11月生まれなので、本当ならこんな展開は絶対にありえないことな
んですけどね・・・

                                           By キューブ



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