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 求める心のままに・・・

なんだかそんな気がしていた・・・

背中から琴子の腕がスッと絡みついてきた時、オレはそう思った。
そう・・・帰ってきた時から、何度も繰り返されていた琴子のため息が、オレにそんな予感
を感じさせていたのかもしれない。



オレは、パソコンの画面から目を離さずに、琴子のするにまかせていた。
「私って幸せ者だよね・・・」
琴子が、ひとり言のようにつぶやく。

「どうした?」
思わず聞き返したのは、それがまるで今日一番の深いため息のように聞こえたから・・・
言葉とは裏腹な切ない響きは、パソコンのモニターに映る文字を目の前から消し去って
オレの心と共鳴する。

しかし、琴子は、化粧水をつけたばかりのひんやりとした頬をオレの頬に押し付けなが
ら小さく首を横に振った。

「私の周りの人が、みんな幸せだといいな・・・」

その言葉は、慈愛に満ちて深くオレの心に沁み込んでいく。
そんな時は、ただその心地よさと頬に伝わる熱に身をまかせればいい・・・

言葉の意味を知る必要はない・・・琴子もそれを望んでいるわけではない。

誰かを想って心を痛めているのなら、そんな琴子を癒すことができるのは、この世で
オレひとりだけ。
だから、憂いに翳ったその顔に、今すぐに幸せな微笑みを・・・


二人きりの部屋・・・誰に遠慮することもない。
見つめ合う瞳の中に互いの姿を見つけたなら、求める心のままに、今確かめ合う・・・


                                         END



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