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 わかってる・・・

わかってる・・・
琴子が、きっと発狂しそうなほどに寂しい思いをしていることなんて・・・


オレが入籍を拒んだことで、不安を募らせていることだって・・・
でも、オレたち神様の前で、ずっと一緒にいるって誓ったじゃないか。


―オレを、もっと信じろよ。


それなのに、オレはまた琴子を傷つけた。
あんな時、一番言ってはいけない言葉を琴子に投げつけた。


わかってる・・・
あいつがいたからだ・・・金之助。
オレは、あいつを目の前にすると、どうしても冷静でいられなくなる。
あの時、あの場にいたのが琴子だけだったら、もう少し優しい言葉をかけてやれたかもし
れない。

―いや・・・オレにはそんなこと無理か・・・


オレは、弁当箱を目の前に置いて、ひとつ大きな深呼吸をした。
それはまるで、始めからそれがビックリ箱だとわかっていて、蓋を開ける時のような心境だ。
中から出てくるものを想像して、胸がドキドキしてくる。

―琴子には悪いけど、本当にそう思うんだよ。

でも、わかってる・・・
この中に、どれ程の愛情が込められているかも・・・
だから、どんなに肉が塩辛くても、野菜に火が通り過ぎていても、殻の入った卵焼きだっ
てオレは全部たいらげるよ・・・味はともかく、琴子の想いがオレの力になる。


ほら、こうしてお前を感じただけで、張り詰めていた気持ちが、ふっと緩むのがわかる。
だからこそ、家に帰らなかったんだ・・・琴子を目の前にすれば、ましてや抱きしめてしま
えば今のこの緊張感も集中力も途切れてしまいそうだったから・・・


オレには、今どうしてもやり遂げなければならないことがある。
胸を張って琴子を妻にするために、オレが自分に課した課題・・・
だから、琴子がどんなに怒っても、どんなに泣いても、今これを投げ出してあいつを追い
かけることはできなかった。


―まったく、人の気も知らないで・・・


それでも、あんな琴子の顔を見ると、やっぱり切なさが込み上げる。
あと少しだ・・・あと少しでお前を迎えに行って、その不安を解いてやるから・・・



でも琴子?・・・お前はわかってないんだな・・・


寂しい思いをしているのは、お前ばかりじゃないってこと・・・
お前がオレに会えないでいた時間と同じだけ、オレもお前に会えずにいたんだってことを・・・


                                          END



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