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 生日快楽−Happy Birthday− <Final>

琴子の誕生日の朝・・・待ち合わせ場所や時間を、何度も念を押されながら家を出た。

面倒そうな顔を見せながらも、本当は、オレ自身もその時を楽しみにしていた。
もちろん、その時のオレ達は、今夜は琴子の望む幸せな時間を過ごせることを、信じて疑
ってはいなかった。

そう・・・待ち合わせの時間を過ぎても、琴子があらわれなかったあの時までは・・・

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「もう!!どうして私っていつもこうなんだろーホントに悔しくてまた涙が出そう・・・」
琴子が、すでに何度目かの悪態を付きながら地団駄を踏んでいる。

「ほらほら、もうわかったから早くシャワーを浴びて来いよ・・・その格好のままじゃ、どっちに
したって何もできないだろう?」
オレは、呆れながら病院の更衣室のドアを開けると、琴子を無理やり中へ押し込んだ。

「だって、せっかく入江君が、私のために時間を作ってくれたのに〜〜」
ドアを閉めても、まだ中から聞こえてくる琴子の声に苦笑しながら、オレは更衣室の前の廊
下に置かれているベンチに腰掛けた。

全身から力が抜けて、大きな大きなため息が出る・・・
打ち消しても、打ち消しても、脳裏に蘇るのは身も凍るような光景・・・

待っても待っても待ち合わせ場所に現れない琴子。
何度かけても繋がらない電話。
琴子の身に何かが起こっていることは明らかなのに、その場から動くことができないオレ。

そんなじわじわと追い詰められていくような時間の果てに、やっと見つけた琴子は全身血だ
らけだったんだ。
オレが、どれ程心配して、どれ程驚いたことか・・・それなのに、琴子は誕生日のプランが台
無しになったことしか頭にないらしい・・・
でも、それがあまりにも琴子らしくて、オレは天を仰いで苦笑いを浮かべた。

―まったく、いつもいつもタイミングの悪い奴・・・

そして、オレは、ポケットの中に手を入れて、中に入っているものの感触を確かめると、これ
から先の時間へと思いを馳せた。

ポケットの中にあるもの・・・それが、琴子への誕生日プレゼント。
琴子が今年の自分の誕生日を、オレと二人で過ごしたいと言ったあの日から、ずっと考えて、
そしてこれしかないと思えたプレゼント。
図らずも、せっかくの誕生日が、台無しになって、がっかりしている琴子の顔に、これがきっと
至福の笑顔をもたらす・・・そうさ、きっと。

―本当の誕生日はこれからだよ・・・

オレは、琴子へのありったけの愛を込めるように、ポケットの中でそれをしっかりと握りしめた。
琴子を愛するようになって、もう随分とたつのに、オレはどうして今でもこんなにも琴子に惹
かれるんだろう・・・

オレはちゃんと言えるかな・・・
素直になれなかったあの頃の思い出と一緒に、何年分もの「誕生日おめでとう」を・・・

―そして、心を込めて贈るよ・・・オレの人生の第2ボタンを、今夜お前に・・・



                                           END


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