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 kiss20へ捧げる物語

<kiss20>とは・・・
イタズラなkiss2が台湾で放送された時には、その話数を第1話、第2話…ではなく、
kiss1、kiss2・・・と表示していました。そしてこのドラマの最終話がkiss20でした。

このお話は、そのkiss20=最終話のその後へ想いを馳せて書いたお話です。


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「琴子?・・・オレが、どうして天才に生まれてきたか知ってるか?」

「えっ?・・・」

それは、ビデオカメラを片手に妊娠の検査をしに行った日の夜のこと・・・
入江君の腕の中で、今まさに眠りに落ちようとした時に、唐突に彼が言った言葉だった。
あまりに意外な問いかけに、私は頭を起こしてマジマジと入江君の顔を見た。
入江君が、自分のことを天才だと言ったこともそうだったけど、それより何より、入江君が天
才に生まれた理由なんて・・・

「わからないよ・・・入江君は知ってるの?」
私は、入江君の肩の上にもう一度頭を乗せながら聞いた。

「オレは、お前に出会うために、天才に生まれてきたんだ・・・」
きっぱりと言い切った入江君の顔が、ほの暗いナイトライトの中に浮かんで、この上なく優し
い微笑みをたたえている。

「私と出会うため?・・・」
私は、入江君の言葉に戸惑っていた。

「オレの持って生まれたこの能力も、誰も寄せ付けなかった硬い理性も、女嫌いな性格も、
全部が今に繋がっているって、そんな気がするんだ・・・」
入江君は、まるでひとり言のようにそう言うと、もう一度私の目を覗き込んで、にっこりと笑
って見せた。
そして、私の唇にそっとキスをすると「おやすみ」と言って、目を閉じてしまった。

「ねえ、どういうこと?・・・わからないよ・・・」

私は、入江君の閉じた瞼に向かって何度も聞いてみたけど、結局彼は何も答えず、唇の
端にやわらかい微笑みを浮かべたまま、静かに寝息をたて始めていた。

その翌日から、入江君は何か新しいことを始めたようだった。
机の上に積み上げられていく難しそうな本の山・・・たくさんのCD-ROM・・・ガラスのテー
ブルに書きなぐられたたくさんの文字・・・

いくら私でも、それが何なのかぐらいわかる・・・そして、あの時入江君が言ったことの意
味を理解するには十分だった。
それは、眼科の専門書だったり、先天性疾患に関する論文だったり・・・入江君が、私を
守ろうとしてくれているのが、手に取るようにわかって、私は何度も何度も涙を流した・・・

入江君は、彼の持てる力の全てを私に注ごうとしている・・・どんなことが起こっても最善
をつくせるように準備してくれている・・・
そして、それはおそらく入江君自身が後悔しないためでもある。

そんな入江君に、私はどうやって答えたらいいんだろう・・・

入江君が、「オレのそばを離れることはゆるさない」と私を抱きしめてくれたあの日・・・
私は、それまでどれ程入江君が、私のことを愛してくれていたかということを知った。
私は、ただ自分が入江君を好きでいることだけに一生懸命で、ずっとずっと前から入江
君の大きな愛情に包まれていたことに気付いていなかった。

あれから半年・・・
私は今、自分を大切に生きている。
何よりも私のいない毎日が怖いと言ってくれた入江君を、これから先もずっと怖がらせた
りしないように、入江君のために”私”を大切にしていこうと心に誓った。
そして、何があっても、絶対に入江君を信じていく・・・

「おい、琴子!・・・まだ仕度できないのか?出掛けるぞ・・・」
階下から、入江君の焦れた声が聞こえてきて、私は慌てて「すぐいく」と答えながら、鏡を
覗き込んで髪を整えた。

急いでバッグを掴むと、勢いよくドアから飛び出す・・・
すると、開けたドアの前に、入江君が怖い顔をして、腕組をした格好で立っていた。

「やっぱりな・・・」
「えっ?・・・」
「何をするにも、ゆっくりやれっていつも言ってるだろ・・・」
「あっ・・・ごめん・・・でも、入江君が下から急かすから・・・」
私は、謝りながらも、ちょっと抵抗もしてみた。

「そう思ったから、ここで構えてたんだよ・・・絶対にお前のことだから勢いよく飛び出して
くるだろうと思ってさ」
入江君は、いたずらっ子のような笑顔を浮かべてそう言った。

「ねえ、入江君?・・・そろそろ7ヶ月になるけど、もう男の子か女の子かってわかるのかな・・・」
私は、少し出っ張ってきたお腹を撫でながら、つぶやいた。

「さあな・・・そんなことより、お前に似てるか、オレに似てるかの方が重要じゃないか?・・・」
入江君が、にやりと笑いながら私の顔を覗き込む。

「ちょっと、それってどういう意味?・・・どうせ私は万年F組ですよ〜だ」
私は、すねてプイと横を向いた・・・そんな私の肩を、入江君はとても楽しそうに笑いながら抱
き寄せて、私たちは、康南大学病院の産婦人科での、定期健診を受けるために出かけた。


私は、何も恐れてはいない・・・ただ入江君を信じていればいい・・・
もう、私だけが入江君を好きでいるなんて思ってはいない。
私の愛のほうがずっと大きいとも思っていない。
今は、素直に入江君の愛を感じることができるから・・・

そう・・・私は、最近気付いたことがある・・・
私たちの部屋の、入江君のデスクの上に、相変わらず積み上げられている本の山・・・
その中に、「産科の専門書」が紛れこんでいることを・・・

もしかしたら入江君は、初めて生まれてくる自分の分身を、自らの手でとりあげたいと思って
いるのかもしれない。

そう・・・私と入江君の愛を引き継いでいく、初めての小さな命を・・・


                                                  END


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