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 未来を照らす想い・・・

<まえがき>
このお話では、直樹が病院のオフィスで琴子を見つけたシーンをそのまま再現しています。
ただ、2人の会話は台湾での放送時に、中国語のセリフをそのまま日本語に翻訳していただ
いたものを使っていますので、日本語字幕版のセリフとは多少異なると思います。

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碧潭・・・学校・・・初めてキスをしたあの場所・・・
そのどこにも、確かに琴子の気配があったのに、オレは琴子に追い付けない。

―琴子・・・琴子・・・お前どこに隠れちゃったんだよ・・・

結局、その日オレは琴子を見つけられないまま家に戻り、まんじりとしない夜を過ごした。
携帯電話を握りしめたまま、ふと目覚めては着信を確認し、電話をかけてみる。
決して繋がらない電話に、焦燥感を募らせながら、浅い眠りの中で何度も琴子の背中を追
いかける夢をみた。

翌朝、オレは家族と顔を合わす前に家を出ると、昨日と同じところをもう一度回り、
さらに思い当たる場所は全て探した。
街を歩いていても、その角を曲がったら・・・今ここで振り向いたら、そこに琴子がいそうな気
がして、オレは、わけもなく何度も振り返りながら歩いていた。
しかし、そんな期待も次の瞬間には消え去り、オレはその度に振り出しに戻ったことを思い
知らされていた。

―琴子・・・思い出の場所を彷徨って、今お前はどこにいるんだよ・・・

その時、ふと”思い出”という言葉がオレの心に引っかかった。

―病院か?・・・

オレは、踵を返して病院へと向かった。
オレの前から消えるために家を出て行った琴子が病院に立ち寄るとは思ってもいなかった。
しかし、オレのオフィスは別だと不意に気がついた。
あそこには、琴子にとって何よりも大切な思い出がたくさん詰まっているのだから・・・
そして、病院に着く頃には、もうそれは確信に変わっていた。

―琴子はきっとここにいる。

オレは、走り出したい気持ちをこらえながら急いでオフィスへと向かった。

オフィスのドアが細く開いて、中から明かりがもれている。
ドアに近づくと、微かに聞こえてくるのは琴子のすすり泣きの声・・・
オレは、音をたてないようにそっとドアを開けると、オフィスの中に入って行った。

琴子は、オレのデスクに額を乗せて泣いていた。

―お前・・・どうしてそんなところで一人で泣いてるんだよ・・・

締め付けられるような胸の痛みを感じながら、そっと琴子に近づくと、静かに跪いた・・・
「入江君!・・・どうしてここに来たの?わ、私、一晩ここで眠ろうかと・・・そ、それでここで
ずっと私たちのブログを見てて・・・」
やっとオレに気づいた琴子が、驚いてまくしたてるのを、オレは黙って聞いていた。
今すぐにでも抱きしめたいのをじっと堪えて、琴子が自分からこの腕の中に戻ってくるのを
待っていた。

―ここへ・・・オレのところへ帰って来い、琴子。

「会いたかったよぉ・・・」
琴子は一声あげると、崩れ落ちるようにオレの肩に顔を押し付けた・・・
オレは、怖いと何度も言いながら泣きじゃくる琴子を両手でしっかり抱きしめた。

「オレから離れることは許さない・・・」
―お前を失いたくない・・・

「どんなことがあってもオレがいるだろ」
―オレが守るから・・・

「怖くて、どうしていいかわからなくなっちゃって・・・」
琴子が、しゃくりあげながらつぶやく。

―わかってるさ・・・だから・・・

「こわがらなくていい・・・」
オレは、震える琴子の耳元に囁いた。

「あなたには、もっと相応しい人が他にいるようなきがして・・・」
琴子の振り絞るような言葉に、切なさが込み上げる・・・しかし、琴子がそんな風に思ってい
ることを決して知らないわけではなかった気がしていた。

―でも、違う・・・それは違うんだよ、琴子。

「いったいどこを探したら、そんな奴がいるんだよ・・・お前ほどオレにぴったりの奴なんてい
やしない」
オレは、きつく琴子を抱きしめた。
「こんな風に・・・抱きしめたいと思うのはお前だけだ・・・そして、お前がオレの足りないところ
を埋めるんだ」

―お前がそばにいてくれればいい・・

「で、でも・・・わ、私たちの赤ちゃんに・・・私から遺伝しちゃったら?・・・」
琴子の不安な気持ちが、痛いほどに伝わってくる・・・

「オレに似るかもしれないだろ・・・オレは信じてるんだ。どんな命だって歩くべき道があって
その先にはきっと素晴らしいことが待っているって・・・ん?・・・オレのこと、そんなに弱いっ
て思うなよ・・・オレはお前がくれたものなら何でも愛せるから・・・いいものも悪いものも、醜
いものでも美しいものでも、悲しいことも嬉しいことも・・・ただ、お前が与えてくれたものなら
それでいいんだ」

想いをひとつひとつ言葉にすることで高まる感情・・・
それはまるで、金之助にプロポーズされたと聞いたあの日、必死で琴子を探したあの雨の
夜の気持ちと似ている気がした。

「オレを信じてくれ・・・オレは、どんなに困難なことでも一緒に乗り越えてみせるさ・・・お願
いだ・・・もうオレから離れるなんて考えないでくれ・・・オレから離れるなよ・・・」
オレは、琴子の涙に濡れた瞳をまっすぐに見つめながら想いを告げていた。

―怖かったのは、お前だけじゃない・・・

「オレだって怖かった・・・怖かったよ・・・オレが怖いのは、お前のいない毎日だよ・・・」
心に湧き上がる言葉がそのまま唇を伝ってこぼれおちた。
それは静かに・・・しかしほとばしるように・・・

琴子は、オレの目に込み上げる涙を見て少し驚いたような表情を浮かべると、包み込むよう
にしてその胸に抱き寄せた。


「私ね・・・今日吉田のおばあちゃんの所に行って来たの。でも、もう亡くなってた・・・おばあ
ちゃんは一人ぽっちでね、いつも私たちのことばかり思ってたって・・・そしたらね、私急にひ
とりが怖くなって、おばあちゃんのようにはなりたくないって思ったの・・・」
琴子の言葉を聞きながら、オレの頬にも熱いものが伝い落ちる。
『いい子をみつけただじゃないか・・・』そう言って、オレに笑って見せた吉田さんの姿が蘇り、
ずっとオレ達を忘れずにいてくれた彼女の想いが、琴子とオレをここへ導いてくれたような気
がしていた。

「入江君、だから私あなたの所に戻ってきちゃったの・・・私ってホントにダメでしょう?・・・
ごめんなさい」
「全然そんなことない。お前はひとりぼっちなんかじゃないよ」
「私、ひとりで飛び出して、本当に怖かったの・・・」
「怖がらなくていい・・・オレがいる・・・」

ほぐれていく心・・・今ひとつになる。
失いかけたものがこの腕の中にあることに安堵し、拾い集めた言葉に本当の意味を知る。


オレはこんなにも琴子を愛していると、思い知らされる・・・


「私、本当にあなたのために赤ちゃんを産みたいって思うの・・・たくさんたくさん産みたいの
・・・そうすれば私たちの愛がずっと続いて行って、もしもこれからどちらかが先に逝ってしま
っても、きっと怖くないでしょう?・・・本当にそうしたいのに・・・」

そして、琴子の愛はどこまでも遥か未来のオレ達をも照らそうとしている。


込み上げる愛おしさを伝えるために、もう言葉は必要なかった・・・

琴子の涙で濡れた唇に、想いを込めて口づける。
どんなことがあっても離さない・・・心から愛していると誓いながら・・・


                                            END


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