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 続・幸せな誕生日の結末

―5時か・・・

オレは、腕時計を見て心の中でつぶやくと、デスクの上のメモクリップに留められた小さなメモ用
紙に目を向けた。

<今日は、何があっても絶対に、ぜ〜〜ったいに早く帰って来てね♪>

それは、今朝いつの間にかオレのパスケースに差し込まれていた琴子からのメッセージ。
ハートの模様が踊るメモ用紙に走り書きされた琴子の想いが、窓から吹き込む風に揺れていた。

「わかってるよ・・・」
オレは、思わずフッと笑いながら、その紙片を指で弾いた。

デスクの上を片づけて、白衣を脱いでハンガーにかける。
オレはふと思いついて、琴子からのメッセージをメモクリップからはずすと、デスクの引き出しの
中に収めた。
そして引き出しの中に並べられた、琴子がくれたお守りやラブレターを指でひと撫でした。

―そういえば、1年前の今頃は駅前広場で琴子を待っていたっけ・・・

オレは、ふと1年前の今日の出来事に想いを馳せて、窓の外へ目を向けた。
あの日、3時間もの間琴子を待ち続けた時の、苛立ちや胸が苦しくなるほど心配した気持ち・・・
そして、やっと現れた琴子を見つけた時の、驚きと安堵した気持ちが蘇る。

―あいつ、血だらけだったもんな・・・

それから、初めてこの部屋に琴子を連れて来たこと。
初めてのプレゼントの指輪をはめてやったこと。

熱いキス・・・

そして、家に帰ると待っていたオフクロの用意したサプライズと、あの夜の琴子の寝顔・・・



―あれから1年か・・・

次々と蘇るシーンに、思わず苦笑いが浮かぶ・・・
それは、どれも手に取るように鮮明に思い浮かぶ、あまりにも大切な思い出だった。


今日は琴子の誕生日・・・
オレは、例年の如く何日も前から準備に余念のないオフクロと琴子に、半ば脅かされるように、
今日の早い帰宅を約束させられていた・・・

不意にポケットの中で携帯が振動し、オレは我に返った。
見ると琴子からのメールが届いていた。

<定時であがれた?・・・>

オレは、思いのほか長い時間思い出に浸っていたらしい・・・
このメールの向こうの不安げな顔まで見えるくるようで、オレは仕方なくすぐに返事を打った。

<今病院を出るところだ>

―また、いつものお祭り騒ぎがまってるのか・・・

オレは、帰ってからの騒々しさにすでに辟易としながらメールの送信ボタンを押した。


しかし、次の瞬間、待ち受け画面に写し出された写真を見て自然と笑みが浮かんだ。
いつの間にか琴子に勝手に変えられていたこの待ち受け画面に、オレはまだ慣れていない・・・
見るたびに少し驚いて、そしてくすぐったい気持が胸に広がる・・・

「すぐに帰るよ・・・」
オレは、少し照れながら囁いた。


そう・・・

画面の中でこの上なく幸せそうに笑う琴子と、その腕に抱かれたオレ達の天使に向って・・・


                                            END


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