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 この瞬間を刻みつけて・・・

  この瞬間を刻みつけて
  〜私からあなたへのkiss〜


人には誰にでも、決して忘れたくない・・・・・・瞬間がある・・・


「おい、もういい加減に終わりにしてくれよ・・・」
入江君が腰に手をあてて、天を仰いだ。
タキシードのボタンを外し、蝶ネクタイをゆるめて大きなため息をついている。

―そうそう!この言葉を待っていたの。

私は密かに胸をときめかせていた。
とうとうずっと心に秘めていた計画を実行する時が来たのだから・・・

今日は、結婚の記念写真とビデオの撮影会・・・
あまり乗り気じゃない入江君は、そろそろ痺れを切らしたみたい。
でも、それこそが私が待っていた時なの。

「ええー、じゃあもう一箇所だけ!!ねっ?」
私は、内心ほくそ笑みながら、手をすり合わせて懇願するように入江君の顔を見上げた。

入江君は、しばらく何も答えずに私の顔を見下ろしていた。

―どんなに睨んだって、こればかりは譲れないわ。

私が負けじと、精一杯の笑顔で応戦していると、ふいに入江君が肩を落として小さく息を
吐き出しながら言った。
「わかったよ・・・あと一箇所だけだぞ」

「うん!じゃあ、次はこっちこっち!」
私は、入江君の決心が変わらないうちにと焦る気持ちを抑えつつ、入江君の腕を引っ張
るように歩き出した。

「こ、琴子!どこに連れて行くつもりだよ」

「いいから、いいから!!」

―そう・・・あの時もこんな風に、無理やり引っ張られてここへ連れてこられたんだ。

この秘密の計画は、撮影場所をここに決めた時に思いついた。
ここは高校の卒業式のあと、クラスのみんなでお別れ会をしたレストランに隣接する公園。

あれから何年が過ぎたんだろう?・・・
あの日、A組とF組が隣り合わせたお別れ会で、思わず入江君を怒らせて、なぜかキス
されたあの場所へ私達はやって来ていた。


トンネルに入ったところで、入江君が私の手を振りほどく。
「お、おい!こんなところへ連れてきてどういうつもりだよ・・・」
怒り出す入江君に、着いてきたカメラマンが驚いた顔をしている。

「そういう聞き方をするってことは、ここがどこだか覚えてるんだよね?」
私は、入江君がここのことを忘れてしまっているんじゃないかって、それが一番心配だっ
たから、入江君の反応を見て思わず嬉しくなった。
私が思ってるほど、入江君にとっては大切な思い出じゃないだろうって思ってたから・・・

「覚えてるも何も・・・こんなところでどんな写真を撮るっていうんだ?まさかあの時を再現
しろっていうんじゃないだろうな?冗談じゃない・・・」
入江君は、後ずさりしながらまくし立てる。

「そんなつもりはないから、安心して・・・」
私は、ゆっくりと入江君の前に進み出る。

トンネルの壁に追い詰められた入江君は、わけがわからないという顔をして私を見下ろし
ている。

「じゃあ、どうするつもりなん・・・」

私は彼の頬を両手で挟んで引き寄せた。

結局、入江君は言いかけた文句を最後まで言うことはできなかった。

だって・・・

私の唇が、入江君の唇を塞いでしまったから・・・

私からあなたへのKiss。
これはあの日、私のファーストキスを奪ったあなたへの仕返し。
だって、あのキスはとってもイジワルだったもの・・・

覚えているのは、唇を離したあなたの戸惑った顔と、押し付けられた壁の背中に伝わる
冷たさ・・・そして、舌を出したあなたが足早に去っていく後姿を呆然と見送ったこと。

あのキスが、その後どれ程私を惑わせたかあなたはきっと知らないわよね。
あのキスの意味が知りたくて、悩みつづけたいくつもの夜を・・・

一度はあきらめようと思ったのに、あのキスで私の心はあなたへと引き戻された。
それなのに、あなたはまるで何もなかったように、やっぱり私にイジワルだったもの・・・
それでもあのキスは、あなたが私を好きだと言ってくれたあの雨の夜まで、ずっと私の
一番大切な思い出だった。

本当は、聞いてみたい・・・
いつから私が好きだったの?
あのキスはどんな意味を持っていたの?
本当に私でいいの?

でもやっぱり私には聞けないから、せめてこれからもずっと忘れたくないこの瞬間を、
永遠にあなたの心に刻み付けたい。

もちろん、あっかんべーも忘れないわ。

呆れた顔で私を見下ろす入江君の目が笑ってる。
なんだか涙が出そう・・・
私の想い、伝わったかな・・・

「みごとに仕返しされたな・・・お前には降参だよ・・・」
入江君は、そう言いうと私を抱きしめてくれた。
頭のてっぺんに入江君がキスをくれる。
幸せが指の先まで伝わっていく・・・

―入江君、本当に本当に大好き・・・



そして明日・・・私は世界一幸せな、入江君のお嫁さんになる。



                                          END


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


  この瞬間を刻みつけて
  〜お前からオレへのkiss〜



人には誰にでも、決して忘れられない・・・・・・瞬間がある・・・


―どうしてオレは、こんなところでこんなことをしてるんだ・・・


何度も胸に湧き上がる苛立ちを何とかこらえていたのは、琴子があまりに嬉しそうにして
いたから・・・

今日は、結婚の記念写真とビデオの撮影会・・・
絶え間なく聞こえてくるシャッターの音とフラッシュの光に辟易しながら、オレはなんとか
その場をやり過ごしていたが、さすがにもう限界だ・・・

「おい、もういい加減にしてくれよ・・・」
オレは、耐え切れずにカメラに背中を向けた。

「ええー、じゃあもう一箇所だけ!!ねっ?」
琴子が、懇願するようにオレを見上げる。

ほんの数秒オレのココロが抵抗を試みた・・・

―だめだ・・・オレはこいつのこの目にはどうしても勝てない。

「わかったよ・・・あと一箇所だけだぞ」
オレは、そう言うと小さくため息を付いた。

「うん!じゃあ、次はこっちこっち!」
急にオレの腕を掴んだ琴子は、そういうがはやいか勢いよくオレを引っ張って歩き出した。

「こ、琴子!どこに連れて行くつもりだよ」

「いいから、いいから!!」
嬉しそうに、まるでオレを引き摺るように歩いていく琴子の背中のその先に、見覚えのあ
る景色が見えて来た。

―あそこは・・・琴子?お前何考えてんだ?

そこは、高校の卒業式の後の謝恩会で、琴子に嫌な過去をバラされたことで怒りに我を
忘れたオレが無理やり琴子を連れ出した場所。
あの時、オレは気がつくと、興奮しながら何度もオレを忘れてやると繰り返す琴子の口を
自分の唇で塞いでいた。



あのキスの場面が脳裏に蘇った瞬間、オレは、我に返って琴子の手を振りほどいた。
「お、おい!こんなところへ連れてきてどうするつもりだよ・・・」
気がつけば、そこまはまさにオレが琴子を壁に押し付けたトンネルの中だった。

「そういう聞き方をするってことは、ここがどこだか覚えてるんだよね?」
琴子は、探るような目でオレを見ながら聞いた。

「覚えてるも何も・・・こんなところでどんな写真を撮るっていうんだ?まさかあの時を再現
しろっていうんじゃないだろうな?冗談じゃない・・・」
オレは、琴子の考えていることをけん制するつもりで一気にまくし立てた。

しかし、琴子は別に驚いた風でもなく、落胆した風でもなかった。

「そんなつもりはないから、安心して・・・」
琴子は、そう言うと微かに口元に笑みを浮かべてオレに近づいてきた。

「じゃあ、どうするつもりなん・・・」
さらに文句を言おうとしたオレの口は、最後までその言葉を言うことは出来なかった。

なぜなら、オレの唇を琴子の唇が塞いでしまったから・・・

お前からオレへのKiss・・・
その瞬間に、オレはしてやられたと思っていた。
これは、あの思いやりも優しさもないファーストキスへの仕返しなんだと・・・

覚えているのは、唇を離した後の気まずい沈黙と、探るようにオレを見る琴子の瞳の色・・・
そして、それまでに抱いたことのない感情に戸惑い、眠れなかった夜。

琴子が好きだとはっきりと自覚したあの雨の夜まで、オレのココロにくすぶり続けた想いの
原点がここにはある。

そして今でも説明できないあのキスの意味が、ずっと忘れられなかったその瞬間と共にオ
レのココロに刻みつけられた。

―好きだったから・・・

たったそれだけの答えを出すのに、オレは随分と遠回りをしてしまった。

あの時のオレのように、琴子が舌を出しながらピースまでして、これ以上ない程の至福の
笑顔でオレを見上げる。

「みごとに仕返しされたな・・・お前には降参だよ・・・」
オレは、素直に負けを認めて、代りに琴子を抱きしめた。
琴子の髪に唇を寄せる・・・
ココロの底から愛しさが込み上げる・・・


―琴子、いつまでも一緒にいような・・・



そして明日・・・オレ達は夫婦になる。


                                           END



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