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 線香花火

ねえねえ、好美ちゃんも来てることだし、庭で花火しようよ!

庭から聞こえてくる楽しげな笑い声に誘われて、オレはテラスからそっと様子を伺う。
女二人が持つ花火に、火をつけてやるのは裕樹の役目。

―だから、一緒にやりたくなかったのさ・・・

オレは、仏頂面をして次々に差し出される花火に火をつけている裕樹を見て、思わず
吹き出した。

お兄ちゃんも、ここへきて手伝ってよ!
オレの視線に気付いた裕樹が大きく手を振ってオレを呼ぶ。

―いやなこった!

オレは、首を小さく横に振りながら高みの見物を決め込んだ。


ほの暗い庭に、色とりどりの花火がパチパチと音を立てながら一瞬の命を燃やす。
花火に照らされて時おり浮かぶ琴子の楽しげな顔に、自然とオレの顔もほころぶ・・・

ねえ、入江君!最後の線香花火で競争しようよ!
琴子が、面倒くさがるオレの手を無理に引っ張って、庭へ連れて行く。
いつの間にか、裕樹と好美ちゃんは家の中に引き上げていた。

いい?・・・一緒に火をつけて、長く火玉が残っていた方が勝ちね。

―それで勝ったご褒美は?・・・

オレは、余計なことは言うまいと心に浮かんだ言葉を、苦笑いで打ち消した。


琴子の持った線香花火と、無理やり持たされたオレの持つ線香花火を火のついた
ロウソクに一緒にかざす。

ねえ、花火って火がついているときはすごく楽しいけど、消えちゃう瞬間がとっても
寂しいよね・・・だからきっと、次々に火を着けちゃうんだろうね。
琴子が、線香花火をじっとみつめたまま、クスクス笑いながらつぶやく。

だからね・・・最後の花火は、こうして入江君と一緒にしたかったの。
隣に入江君がいれば、最後の火が消えても寂しくないでしょう・・・

―えっ?・・・

オレは、琴子の言葉に惹かれて、思わず横を向いた。

あー、入江君の方が先に落ちたあ・・・私の勝ちね。
琴子が、はしゃいだ声をあげた瞬間、琴子の持っていた線香花火からも余韻を残
しながら小さくなった火玉が落ちた。

あっ・・・

琴子の微かなため息と一緒に、あたりが闇に包まれたその時、オレは琴子の唇に
そっとくちづけた。


この競争の勝者へのご褒美に・・・
そして、最後の花火が終っても、寂しくならないように・・・


                                          END


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