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 ぼくのひとりごと・・・

『ふあぁ〜〜!』
大きなあくびが出て目に涙が浮かんだ・・・

ぼくは、ソファから降りて思いっきり伸びをしてからあたりを見回した。
もう、カーテンの向こうは明るくなっているのにリビングにもキッチンにも人の気配がない。

『あっ、そうか・・・ママとパパと裕樹くんは昨日から泊りがけで出かけてるんだっけ・・・』
ぼくは、寝ぼけた頭で昨日の昼間玄関でママたちを見送ったことを思い出した。

「お兄ちゃんは遅いかもしれないけど、琴子ちゃんは夕方には帰ってくるからそれまでお利口に待
っててね・・・」
ママはぼくの頭を撫でながらそう言って出かけて行ったんだった。

『お腹すいたな・・・琴子ちゃん、早く起きてこないかな・・・』
ぼくは、階段の下まで行って上を見上げた。
2人の部屋の前まで行って催促してみようかな・・・
でも、せっかく直樹くんも琴子ちゃんもお休みなんだし、もう少し寝かせてあげた方がいいよね・・・
なんてったってぼくは広い心の持ち主なんだから・・・

それでも、お腹がグゥーと鳴るたびにぼくは仕方なく水を飲んでじっと待っていた。
すると、やっと2階の部屋で物音がして、勢いよく階段を下りてくる音が聞こえた。
ぼくは嬉しくて階段の下まで迎えに行くと、パジャマのままで降りてきたのは琴子ちゃんではなく
直樹くんだった。

「悪い悪い!・・・ついお前のこと忘れて寝過ごしちまった、腹減っただろう?すぐに飯にしてやるか
らな!」

直樹くんは、そうぼくに話しかけると、ぼくの頭をぐしゃぐしゃっと撫でてからキッチンに入って行った。

それからぼくがすっかりお腹もいっぱいになって、ソファのぼくの定位置に落ち着いた頃、さっき
直樹くんよりももっとすごい音を立てて琴子ちゃんが起きてきた。
その頃には、もう直樹くんは自分で淹れたコーヒーを飲みながら、いつものようにダイニングテー
ブルで優雅に英字新聞を読んでいた。

「ああ〜ごめ〜ん!目覚まし時計止めたのは覚えてるんだけど、その後の記憶がないの・・・今日
は2人っきりだから頑張って朝ごはん作ろうと思ってたのに〜」

寝ぐせですごいことになってる頭をかき上げながら、琴子ちゃんが地団駄を踏んでいる。

「入江く〜ん、もうコーヒーも淹れちゃったの〜?あーあ、ガッカリ・・・」

ぼくは、ソファから顔を上げて2人のやり取りを見ていた。
すると、ぼくと目が合った途端、琴子ちゃんがぼくの前に駆け寄って来た。そして、ぼくの食事用
の器が空になっているのを見ると、情けない顔をして言った。
「あ〜んチビ〜!お義母さんに頼まれてたのに、ホントにごめんね・・・」

『そんなの気にしなくていいのに・・・いつものことだよ』
ぼくは、琴子ちゃんに向かってそうつぶやいた。
そして、琴子ちゃんのほっぺにペロリとおはようの挨拶をしてから、チラリと直樹くんの顔を見た。
でも、直樹くんは我関せずといったように、英字新聞をめくっている・・・直樹くんは、本当はとっ
てもやきもち焼きなんだけど、ぼくが琴子ちゃんにキスをするのは平気なんだ・・・
だって、ぼくは直樹くんの信頼を得ているからね。

「おい、ひと騒ぎは終わったか?・・・まったく起きた途端からうるさい奴・・・お前もここへきてコー
ヒー飲めよ。冷めるぞ!」
直樹くんが、相変わらずのクールな表情のまま、新聞から目を離さずに言った。

「う、うん・・・」
琴子ちゃんは、急に力が抜けたようにしょんぼりとうつむくと、静かにダイニングテーブルに腰掛
けた。
そして、ポットから自分のカップにコーヒーを注ぐと一口飲んでから、直樹くんが用意してあった
トーストに手を伸ばした。

うなだれたままトーストにかぶり付いている琴子ちゃんを新聞の上からそっと覗くように見て直樹
くんが笑っている。
ぼくは、そんな2人をちょっと薄目を開けて見ているのが大好きだ。
直樹くんはいつも本当に呆れるほど素直じゃないけど、いつでもすごく琴子ちゃんのことを思っ
ていることをぼくは知っているから・・・

「琴子・・・朝飯が終わったらチビの散歩に行くぞ」
直樹くんが、ぼくの方を見ながら言った。
ぼくは、顔を上げてちょっと尻尾を振って見せる。

「うん、お天気もいいし、ちょっとデート気分だね・・・」
たった今までしょんぼりとしていた琴子ちゃんが急に満面の笑顔になり、やっぱり直樹くんはちょ
っと呆れ顔で肩をすくめた。

ママたちがいないのはやっぱり寂しいけど、直樹くんや琴子ちゃんがぼくをいっぱいかまってくれ
るこんな休日もいい。
何といっても、ぼくは2人が仲良くしているところを見ているのが大好きだからね。
だって、この2人がこんな風に穏やかに暮らせるようになるまでのたくさんの涙や苦しみをぼくは
ずっと見てきたから・・・

『早く、早く!!』
なんだかぼくまで嬉しくなってきて、2人に向かって力いっぱい尻尾を振りながら吠えてみた。

「わかったわかったチビ。今行くから、そんなにせかすなよ・・・」
直樹くんが、ぼくにリードを付けてくれて、ぼくたちは太陽が眩しい外へ出た。

直樹くんの右手がぼくのリードを持って、琴子ちゃんが直樹くんの左手を握って歩いていく。
朝の散歩と言うにはちょっと太陽が高く昇りすぎてるけど、ぼくはそんなことちっともかまわない・・・
だって、ぼくの歩くすぐ横で、ぼくがずっと見守って来た2人の幸せな笑顔が輝いているから・・・



いつか話して聞かせてあげようか・・・?
ぼくが見てきた、ぼくだけが知っている2人の恋の顛末を。

ただし・・・ぼくのひとりごとを聞きたければ、犬の言葉がわからないとダメだけどね・・・


                                               チビ@小可愛


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