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 窓ガラス −琴子編−

―入江君♪・・・

私は弾むようにドアを開けると、ぐるりと部屋の中を見回した。
探すほどのこともない・・・入江君は、いつものごとく窓際のデスクの前に座っていた。
私は、声をかける前に窓ガラスに映った入江君の顔を盗み見た・・・
だって、カーテンを引いていない夜の窓ガラスは鏡のようにデスクに向かう入江君の顔を映して
いるから。

―あれれ・・・難しい顔してる・・・

入江君は、口を真一文字に結んで、ちょっと眉間にしわを寄せた顔でパソコンを見ている。
左手で頬杖をついて、右手はマウスを握って、その手が時々円を描くように動くたびに入江君の
顔にモニタの明かりが反射していた。

お義母さんと夕食の後片付けを済ませて部屋に戻ったら、入江君に話したいことがいっぱいあっ
たんだけどな・・・
いつも何を考えてるのかわからない入江君でも、あの表情をしているときはちょっと声を掛けられ
ない・・・

私は、音をたてないようにドアを閉めると、そっとベッドの端に腰掛けて読みかけだった雑誌を手に
取った。
それでも時々、目だけを動かして入江君の様子を伺う・・・

―もう!私が戻ってきたことにも気づかないの?!

あまりに無反応な入江君にだんだんと腹が立ってくる・・・
そんなに無視しなくてもいいじゃない!
どうせ私は邪魔ものですよ〜!
ちょっとくらい振り向いてくれてもいいのに・・・

雑誌を読んでいても少しも頭に入らなくて、機械的にページをめくっては何度もため息が出た。

家にいる時くらい、ゆっくりしたらいいのに・・・
それが無理ならせめて夕食の後くらい・・・
体壊したりしないかな・・・
腹を立ててたはずが、次には入江君のことが心配になってくる。

「おい!」

不意に入江君の声がして、私は飛び上るほど驚いた。

「えっ?・・・なに?・・・」

「なに?・・・じゃないだろ。そんなに何度もため息つきながら後ろで百面相されてたら気になって
何も頭に入らないだろ!」
背中を向けたままの入江君が、呆れたように言う。

「ご、ごめん・・・仕事の邪魔しちゃった?」
私は、入江君を怒らせてしまったと思って、おずおずと尋ねた。
そして、ふと視線を移すと、思いがけず入江君の笑顔が窓ガラスに映っていた。

―えっ?・・・

「バカ・・・別に仕事なんかしてねーよ!」
入江君は、私のポカンとした顔を見てからかうように言った。

「ええ〜〜??そうなの〜?」

―それならそうと早く言ってよ・・・

私は今まで気をもんでいたことがバカらしくなって、思わず口を尖らせながら黙り込んだ。
すると、椅子から立ち上がって私の隣に座った入江君が耳元で囁いた。
「で?・・・何かいいことでもあったのか?」

「えっ?・・・何でわかるの?」
私は、さらに驚いて顔を上げた。

「だってお前、部屋に入って来た時、すごい嬉しそうな顔してからさ・・・」
入江君は、さも楽しげに顔を近づけて言った。

「どうしてそんなことわかるの?・・・あっ!」

そう・・・私はその瞬間気が付いた。
入江君も私と同じように、窓ガラスに映った私を見ていたのだと。
今はデスクとパソコンだけが映っているガラスに目を向けた私に、入江君は「そういうことさ」と言
ってにやりと笑った。

「もう、入江君ズルイ!!・・・私は入江君が真剣な顔してるから・・・ん!」

突然入江君のキスが私の唇を塞いで、文句を言い始めた私は結局それを最後までいうことは出
来なかった。
そして、話したかったことも、どうやらもうしばらくお預けになりそうだ・・・

だって、キスの後、入江君が私をギュっと抱きしめるから・・・


ウキウキと部屋に戻って、ガッカリして、腹を立てながら心配もした。
そして、ドキッとさせられて今はたぶん誰よりも幸せ・・・

ホントに、入江君が大好き・・・。


                                              END


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