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 いつものハッピーエンド

「ねえ、裕樹君?・・・ほら、あそこにいるの琴子さんじゃない?」

好美の言葉に、その指の指す方向を見ると、確かにそれは琴子だった。
夕闇迫る公園のブランコ・・・浮かない顔をして、ユラユラとブランコを揺らしている琴子
を見て、僕は思わず吹き出した。

「なんで笑うの?・・・」
好美が僕を睨みながら聞く。

「大方、お兄ちゃんと喧嘩でもしたんだろう?・・・どうせ、またお兄ちゃんにぐうの音もで
ないこと言われて勢いで飛び出してきて帰れないでいるんだよ・・・」
僕は、二人の喧嘩の一部始終が想像できるような気がしながら答えた。

「そうなの?・・・」

「きっとそうだよ・・・いいよ、放っておいて、それで結局お兄ちゃんが迎えに来てそれで仲
直りするんだ、行こう・・・」
僕は、もう一度だけ琴子に視線を投げてから、好美を促して家に向かった。


家に帰ると、お兄ちゃんがリビングのソファに寝転んで本を読んでいた。
僕と好美が入っていくと、一瞬顔を上げて次にはがっかりしたような表情になって、本に
視線を戻した。

―やっぱりね・・・

僕は、お兄ちゃんの態度を見てほくそ笑みながら、母さんに用意してもらったケーキと紅
茶をトレイに乗せて、階段を上がっていった。

階段を上がりながら、僕は好美に目配せをしながらちょっと大きな声で言った。
「そういえば、さっき琴子が公園にいたけど、何してたんだろうな?・・・」

僕の目配せに気づいた好美が、答える。
「うん、ブランコに乗ってたよね・・・なんだかしょんぼりしてたみたい・・・」

そして僕と好美は、クスクスと笑いながら階段の上で下の様子を伺っていた。
すると、少し間を置いて玄関ドアの閉まる音がして、僕だけがそっと下に下りてみると、リ
ビングのソファには、お兄ちゃんが読んでいた本だけが置き去りにされていた。
キッチンを振り返ると、入り口から顔だけを覗かせて、母さんがVサインをして笑っていた。


「まったく、お兄ちゃんも素直じゃないよな・・・」
僕は、ため息をつきながら部屋に戻った。

「ああ、なんだかドキドキしたなぁ、裕樹君のお兄さんと琴子さんっていつもあんな風なの?」
好美が、僕の部屋のソファに腰掛けながら顔を上気させて聞く。

「いつものパターンさ・・・琴子も勝ち目がないのわかってて食い下がっていくし、お兄ちゃん
はとことん琴子を追い詰める・・・それでいて、琴子が心配で、わざわざ自分の部屋じゃなく
リビングのソファなんかで本を読んでるのさ・・・」
僕は、これまでにもあった二人の喧嘩をあれこれ思い出しながら話した。
「でも、それってさ、つまりいつでも本音でぶつかり合ってるってことなんだよな・・・あのい
つも冷静なお兄ちゃんをあそこまで怒らせることができるは、たぶんこの世で琴子だけだ
よ・・・僕にもムリだね」

「なんだか素敵ね・・・」
好美がうっとりとした顔でつぶやく。

「おいおい、そんなこと実際の現場を見てないから言えるんだ・・・お兄ちゃんがマジで怒
ったら震え上がるほど怖いんだぞ・・・」
僕は、あきれながら答える。

「でも、最後には迎えに来てくれるんでしょう?」 
「えっ?・・・」

僕は、上目遣いに僕を見上げる好美の瞳の色に、ほんの一瞬言葉を失った。
しかし、すぐに気を取り直して、少しニヤつきながら言葉を濁した。
「さあ、確かに僕はあの入江直樹の弟だけどね・・・」
すると、好美は「もう!」と不満の声をあげて立ち上がると、窓際に立って外を眺め始めた。

僕と好美が、この先どうなるのかはまだわからない。
大学へ行き、社会へ出る間に、きっといろいろな変化も起こっていくだろう。
でも、もしこの先もずっと一緒にいるのなら・・・いや、一緒にいられるのなら、お兄ちゃん
と琴子のように、いつもお互いを一番に好きでいられる仲でいたいと僕は思う。

思いっきり喧嘩をして、言いたいことを言い合っても、そこで知ったお互いの気持ちをちゃ
んと受け止めて思い合える仲に・・・

「あっ・・・」
好美が、窓の外をみながら小さな声をあげた。

「どうした?」
僕も、好美の隣に立ちながら好美の視線の先を見た。

家に続く道の先に、お兄ちゃんと琴子の姿が見えた。
仏頂面のお兄ちゃんと、満面の笑みでその手にぶら下がるようにして歩いている琴子・・・
僕と好美は、思わず顔を見合わせて笑った。

「裕樹君のお兄さん、あんな顔してるけど、琴子さんの手はしっかり握ってるのね・・・」
外の二人を見ながら好美が嬉しそうにつぶやく。

僕は、そんな好美の顔を見つめながらそっとその手を握る。
驚いて僕の顔を見た好美が、顔を赤らめながら僕の手を握り返す。

僕たちは、肩を寄せ合いながらもう一度外の二人を見つめて微笑み合った。


いつもの結末・・・いつものハッピーエンド。
そして、やっぱり僕も好美も憧れる最高のカップル。

いつかきっと僕たちも・・・


                                          END


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