≪Menu
 ぼくのひとりごと…part2 −直樹くんのお誕生日編−

みなさん!大変ご無沙汰しています・・・「ぼく」ことチビ@小可愛です。
その後、犬の言葉の勉強はしてくれましたか?
今日は、ぼくがみなさんにこっそり直樹くんのお誕生日の日の出来事をお話しましょう。
相変わらず素直じゃない直樹くんと、もうすぐママになる琴子ちゃんの、いつものお誕生日よりさら
にちょっと特別なお誕生日のお話です。

------------------------

「ねえ、入江君!ちゃんと早く帰って来てよ?・・・今日は・・・」「わかってるよ!」

琴子ちゃんの心配げな問いかけと、それを無下に切り捨てるような直樹くんの返答。
何か特別なことがある日のこの家の朝の光景はいつも変わらない。
ぼくは、リビングのソファの上で、きっと毎度同じ結末を迎えることになる儀式をそれでも薄目を開
けて見守っていた。

―そろそろママが加勢する頃だな・・・

すると、案の定ママがキッチンから顔を出した。
「もう、お兄ちゃんったら!どうしていつもそうやって面倒くさそうな言い方をするの?・・・こんなに
可愛い奥さんに毎年ちゃんと誕生日を祝ってもらえるなんて幸せなことじゃない?」

直樹くんは、ママの言葉には不機嫌な視線をチラリと向けただけでカバンを持つと「行ってくる」と
言って立ちあがった。

そう・・・今日は直樹くんの誕生日。
この入江家には、1年を通してたくさんのお祝い事があるけど、たぶんこの直樹くんの誕生日がそ
の中でも一番盛り上がるし、一番ハラハラするイベントだとぼくは思っている。

―それは、まあ、ぼく的には・・・ってことだけどね。

毎年、祝われる当の本人の直樹くんがまったく喜んでいないのに、琴子ちゃんもママもこれでもか
というほどのお料理やケーキを作って、心のこもったプレゼントを用意して、家の外の壁にはお祝
いの横断幕を貼って、直樹くんの帰りを今か今かと待ってるんだ。
ぼくは、それを見てるとなんだかいつもとても切なくてドキドキしてくる・・・だって、あんなに楽しそう
に準備をしていて、もし直樹くんが帰ってこなかったら琴子ちゃんがどれ程がっかりするだろうって
思うからね・・・
それは、たぶん琴子ちゃんやママも同じ気持ちでいるからなんだろう・・・直樹くんがちゃんと帰って
くると、まずはそれだけで嬉しくて、そこにお祝い気分も高まるからか、直樹くんの誕生日は本人の
不機嫌な顔とは裏腹にいつもすごく盛り上がるんだろうってぼくは思ってるんだ。
だから、ぼくは直樹くんが帰ってくるその瞬間まで、いつもずっと琴子ちゃんが心配で気が抜けない
んだ。


でも、今年はちょっと違うんだよ・・・
それは、今日がただの直樹くんの誕生日じゃないから・・・

―ねっ?・・・直樹くん!

ぼくは、ダイニングを出ていく直樹くんの後ろ姿を目で追いながら思っていた。

「そうだ!バス停まで送って行こうっと!」

不意に、琴子ちゃんの声が聞こえて来てぼくは頭をあげた。

―ん?・・・ぼくの出番かな?・・・

「何言ってんだ!いいよそんなの!」
直樹くんが抵抗する声を聞きながら、ぼくはゆっくりとソファから降りた。
もちろん、直樹くんがいくら抵抗したって、琴子ちゃんがああ言いだしたら絶対に引かないのはわか
っいること。
だから、ぼくはまずはソファの前で思いっきり伸びをしながら琴子ちゃんの足音に耳を澄ませていた。
すると、思った通り琴子ちゃんが顔を出してぼくを呼んだ。
「チビ!入江君をバス停まで見送りに行くよ。そのままお散歩してこよう!」

―待ってました!

ぼくは、尻尾を思いっきり振って嬉しさを伝えながら、琴子ちゃんに駆け寄った。
ぼくの体にリードを付けてる琴子ちゃんを、呆れ顔の直樹くんが見降ろしている・・・

『まったく・・・直樹くんはいつまでたっても素直じゃないね・・・』
ぼくは、直樹くんを見上げてそうつぶやいた。
すると、まるでぼくの言葉がわかったかのように今度はぼくを睨みつけたから、ぼくは直樹君からそ
っと視線を外した。



「お前、安定期に入るまでは大人しくしてろって、産科の先生に言われただろ?・・・」
外に出て歩き始めると、直樹くんが琴子ちゃんに向かって言った。

「そう言ったって、ずっと家にいたら体がなまっちゃうよ!それにチビはちゃんと私の体のことわかっ
てくれてて、絶対に走らないし、いつだって道路側を歩いてくれるし、ちょうどいい運動になるんだよ。
ねえ?チビ!」

『まあね』
ぼくは、琴子ちゃんの言葉に思わず胸を張りながら答えた。

でもね、ぼくがそうしているのには本当は直樹くんとの男の約束があるからなんだってことを琴子ち
ゃんは知らない。
琴子ちゃんの妊娠がわかった時、直樹くんは、ぼくに言ったんだ。
「オレがいない時は、チビが琴子を守ってくれよ・・・約束だぞ」ってね。
直樹くんは、ぼくの前では時々とっても素直に気持ちを打ち明けてくれることがあるんだ。
でももし、ぼくに人間の言葉が話せたら、きっとぼくはこのことを琴子ちゃんに教えちゃうだろうな。
だって、どうしても直樹くんの気持ちって琴子ちゃんに伝わりにくいから・・・
それに、やっぱりぼくはどちらかといえば琴子ちゃんの味方だからね。



直樹くんをバス停で見送った後、琴子ちゃんはぼくを公園へ連れて行ってくれた。
ひとしきり公園の中を駆け回った後、琴子ちゃんのところに戻ってくると、琴子ちゃんはなんだか寂
しげな顔をしてベンチに腰掛けていた。

『琴子ちゃん。どうしたの?・・・』
ぼくは、琴子ちゃんの前に座るとその顔を覗きこんだ。

「ねえ、チビ?・・・入江君、ちゃんと帰って来てくれるかな?今年が2人でお祝いできる最後のお誕
生日だってわかってるかな?今、そのことをバスに乗る前に言いたかったんだけど、なんだか言え
なかった・・・」
琴子ちゃんは、ぼくの頭を撫でながら小さなため息をひとつついた。
そして、次の瞬間慌てたように両手を振りながら訂正した。
「ち、違うの!赤ちゃんが出来たことはもちろん嬉しいんだよ!だから来年からは3人でお祝いでき
るのもすごく楽しみなの!・・・でも、なんか上手く言えないけど、赤ちゃんが産まれるまでは、2人で
出来ることを大切にしたいの・・・わかってくれる?」

『もちろん、わかるよ!・・・それに、直樹君だってちゃんとわかってるよ!』
ぼくは、琴子ちゃんを少しでも安心させてあげたくて一生懸命伝わるように答えた。

ぼくは、昨夜、食事が出来るのを待っている直樹くんが、ソファで寝そべっていたぼくを相手にひとり
ごとのように話していたことを思い出していた。

「なあチビ?・・・明日はまた大騒ぎだぞ。お前はああいうの好きか?オレはいつまでたっても苦手だ」
『そう?・・・ぼくは大好きだよ!』

キッチンからは、直樹くんのバースデーパーティーの計画を楽しげに相談する琴子ちゃんとママの
声が聞こえていた。

「でもな、明日は特に特別なんだ。きっと琴子は2人で祝える最後のオレの誕生日だなんて考えてる
はずだからな・・・」

『そうだね。琴子ちゃんのことだから、きっとそう思ってるだろうね・・・』

「正直言って、毎回ヒヤヒヤものだよ・・・急患が入ったらおしまいだからな。お前も明日は何事もない
ように祈っててくれよ。」

『うん!・・・わかった!』

すると、直樹くんが急にぼくの顔を覗き込むように顔を傾げると、疑わしい視線でぼくを見つめながら
言った。
「なあ?・・・お前、オレの言ってること全部わかってるだろ?・・・今のこと、絶対に琴子にバラすなよ」

―えっ?・・・

ぼくは、少しドキドキしながら直樹くんの顔を見上げた。
すると、直樹くんは、最後にぼくの頭をぐしゃぐしゃっと撫でると、肩目をつぶってふっと笑った。



ぼくは、公園のベンチでしょんぼりとしてしまった琴子ちゃんに、もう一度言った。
『だから、きっと大丈夫!琴子ちゃんの気持ちはちゃんと通じてるよ。』
すると、不意に顔を上げた琴子ちゃんが、ぼくのことをしみじみ見つめながらつぶやいた。
「なんだか不思議・・・」

『何が?・・・』
ぼくは、琴子ちゃんの膝の上に頭を乗せて目だけを上げて琴子ちゃんを見た。

「チビに聞いてもらったら、急に大丈夫な気がして来たよ!・・・うん、きっと入江君はちゃんと帰っ
て来てくれるよね?それに、入江君ももしかしたら私と同じこと考えてるかもしれない・・・なんだか
チビの顔見てたらそう思えて来たよ」
琴子ちゃんは、笑顔になりながらそう言ってくれた。

『そうそう!その通りだよ。大丈夫だよ。だからもっと笑って!』
ぼくは、立ちあがって精一杯尻尾を振りながら、公園の出口に体を向けて琴子ちゃんに帰ろうと促
した。

「そうだね。帰ってパーティーの準備をしなきゃ!・・・行こう!チビ」

ぼくは、琴子ちゃんに寄り添うように歩きながら、ちょっとだけ驚いていた。

―なんだか、ぼくの思ってることが伝わったみたい。


ねえ?・・・ぼくの大好きな2人は本当に素敵だと思わない?
これで、今夜はまた弾けるような琴子ちゃんの笑顔が見られる。
直樹くんは、きっと相変わらず不機嫌そうな顔をするんだろうけど、本当はぼくと同じように琴子ちゃ
んの笑顔を見ながら何よりも幸せを感じていることをぼくは知っている。



家が見えてくるあたりまで歩いて来ると、家の壁に脚立を立ててママが横断幕を貼っている姿が見
えた。
このママがまたとっても素敵で、ぼくは大好きさ。

「お義母さ〜ん。ただいま〜!もう始めちゃったんですか?私も手伝います!!」
琴子ちゃんが大きな声でママに声をかけた。
そして、駆け出そうとした琴子ちゃんが、リードを引っ張るのをぼくはぐっと踏ん張って止めた。
『琴子ちゃん、走っちゃダメだよ!』

「あっ、そうか!走っちゃいけないんだった。チビ、止めてくれてありがと」
琴子ちゃんが、照れた顔で振り返った。



さあ、賑やかで楽しくて幸せな1日が始まる。
きっと、今年の誕生日だけは、何があっても直樹くんは早く帰ってくる。
だから、ぼくも安心して琴子ちゃんのそばにいよう。

「琴子ちゃ〜ん!ねえ、横断幕曲がってない?」
ママが、ぼくたちに向かって大きな声で聞いた。
琴子ちゃんは、ぼくのリードを手首にかけるとママに向かって両手で大きな丸を作って見せた。

<直樹 お誕生日おめでとう!>

さわやかな風が、ひらひらと赤い横断幕を揺らしている。
そして、大きな金色の文字に朝の太陽が反射して、輝きながら今日の日を祝っているようにぼくに
は見えた。


                                                チビ@小可愛


Menu