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 穏やかな情景・・・

ねえ、入江君?・・・命って不思議だね・・・

私のパパとママが出逢って、私が生まれて、
入江君のお父さんとお母さんが出逢って、入江君が生まれた。

私が高校の入学式で入江君に恋をして、いろんなことがあって、入江君も
私を好きになってくれて結婚して、今私のお腹の中には私たちの赤ちゃんがいる・・・

ずっと繋がってきてるんだよね。
上手く言えないけど、それってすごいことなんだよね。

ねえ、入江君はお義父さんとお義母さんの子供に生まれてきて良かったって思うでしょ?
私も、パパとママの子供に生まれてこられて本当に良かったって思うの・・・

ねえ・・・あのね・・・

私たちの赤ちゃんも、私と入江君の子供に生まれて良かったって思ってくれるかな?
不安なわけじゃないよ・・・
ただね、そう思ってくれたらいいなって、そうなりたいなって思うの。

それにね、私はもう今から思ってるの・・・
私に入江君の赤ちゃんを授けてくれてありがとうって・・・
それって誰に言えばいいのかな・・・お腹の赤ちゃんかな?それとも神様かな?

でも、一番ありがとうを言いたいのはね・・・

入江君だよ。

私を入江君の赤ちゃんのママにしてくれてありがとう。
大好きな人の赤ちゃんを産むって、本当に幸せだよ・・・
男の人には絶対にわからないだろうけどね。



琴子は、大きく膨らんだお腹を愛おしげに撫でながら、まるでひとりごとのようにつぶやく・・・
それは、優しく耳に流れ込んでくる一片の詩のようで、オレは目を閉じてその心地よさに身
を任せる。

瞼の裏に映るのは、幸せに彩られた穏やかな情景・・・
オレがいて、赤ん坊を抱いた琴子が微笑んでいる。


なあ、琴子・・・
”ありがとう”と言わなければならないのは、オレの方さ。

お前に出逢って、突然輝きだしたオレの人生だから・・・
お前なしでは、無意味な人生だから・・・

生まれてきてよかったって、今は心から思ってる。


決して声にはならないオレの言葉は、柔らかく微笑む琴子の前で少しはにかんだように立
ち止まる。

だからオレは、想いを込めて琴子を抱きしめる・・・
言葉の代わりにキスをする・・・

琴子が嬉しそうにクスクス笑う。
その笑顔が、何よりもオレを幸せにしてくれることを、お前は知っているのかな・・・

そしてオレは・・・
オレに、琴子と琴子の中に宿る命を与えてくれた全ての力に、感謝する。

心を込めて、「ありがとう」・・・と。


                                          END


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